アクアリウム水槽を立ち上げる際、バクテリアが水槽の立ち上げに重要だよということをアクアリウムショップやアクアリウムの趣味を楽しんでいる方から聞くことがあると思います。
今回はアクアリウム水槽の好気性細菌(バクテリア)について分かりやすく説明したいと思います。
専門用語が多く難しいと思いますが、水槽を立ち上げる際にバクテリアのことを知っていると立ち上げの見方や考え方が変わってくると思うので、なるべく専門用語をかみ砕いて説明していきます。
今回の記事では下記について書いていきたいと思います。
Contents
好気性従属栄養細菌について
水槽の中に餌を入れるとどうしても全て餌を食べきることが出来ない為、水槽内に残り餌が残ってしまいます。
又、餌を食べた生体が水槽の中で糞や尿をします。
実際、眼には見えませんが、魚も排尿行為を行っています。
魚には浸透圧調整という体液濃度を調整する大事な機能を備えています。
基本的に、液体に溶けている物質は、濃度の低いほうから濃度の高いほうへ移動する性質があります。
魚の体内塩分濃度は約0.9%、淡水は0%です。
ですので、浸透圧現象によって淡水魚の体内に水分が侵入してきます。
ほとんどの淡水魚は水を飲まず、えらから塩類を取り込み、腎臓から多量の低張尿を排泄して体内の浸透圧を調整しています。
そういった残餌や糞や尿を餌に好気性従属栄養細菌が増えます。
好気性従属栄養細菌とは有機物(残り餌、糞、尿)等の分解、無機化に関与する細菌のことで分解、無機化されるとアンモニアが生成されます。
アクアリウムで使用されている人工餌の多くは生体を大きくしやすくするため、蛋白質を多く含んでいます。
その為、残り餌や餌を食べた生体が水槽の中でする糞や尿にも多くの窒素分が含まれており、より多くのアンモニアが好気性従属栄養細菌によって生成されやすいです。
他にも、魚類は人間のように尿素として排出するだけではなく、鰓からアンモニアを直接排出させています。
その為、アンモニアの量を計ることでどのくらい好気性従属栄養細菌がいるのか知ることができます。
好気性独立栄養細菌について
好気性独立栄養細菌とはよく聞くことがある硝化細菌のことです。
硝化細菌は二酸化炭素を炭素源にしてアンモニア、あるいは亜硝酸塩を窒素源として利用できます。
硝化細菌は倍加時間が8~24時間と一般的な従属栄養細菌として比較して凄く長いです。
従属栄養細菌とは身近なものでは大腸菌とかがあげられますが大腸菌の倍加時間は37℃で20~30分です。
硝化細菌を生物学的役割から大きくグループ分けするとアンモニア酸化細菌と亜硝酸酸化細菌の2つのグループに分けることができます。
アンモニア酸化細菌(AOB)について
アンモニア酸化細菌はアンモニアを酸化して亜硝酸を生成することから亜硝酸化成細菌ともよばれています。
アンモニア酸化細菌は16SrRNA遺伝子配列を元にすると大きく分けてNitorosomonas(ニトロソモナス)、Nitorosospira(ニトロソスピラ)、Nitorosococcus(ニトロソコッカス)の3つの属に分けることができます。
実際にこの3種類の分離や培養が難しく、現在でも細かく分析はされていませんが、水槽内に多くいるのはNitorosomonas(ニトロソモナス)、Nitorosospira(ニトロソスピラ)と言われています。
より分かりやすく分けると一般的な土壌中にはNitorosospira(ニトロソスピラ)が多く存在し、Nitorosomonas(ニトロソモナス)は環境中のアンモニア濃度が比較的高い所に多く存在していると言われています。
その為、水槽内でも水槽環境によってどちらが優位に働いてくるか変わってくると考えられます。
亜硝酸がどのくらい水槽内にいるか計ることで、アンモニア酸化細菌の量が目で見えるようになります。
亜硝酸酸化細菌(NOB)について
亜硝酸酸化細菌は亜硝酸を酸化して硝酸を生成することから硝酸化成細菌ともよばれています。
一般的に亜硝酸酸化細菌はアンモニア酸化細菌よりも増殖速度が速く、飼育水槽のろ過器や濾過槽内ではアンモニア酸化細菌よりも一桁以上多く存在していると言われています。
しかし、研究例が少ないのではっきりと断定はできていません。
昔は亜硝酸酸化細菌の大部分が通性好気性のNitrobacter属(ニトロバクター)であると言われていましたが、全く系統の異なる偏性好気性のNitrospira属(ニトロスピラ)が優占していることが明らかになっています。
Nitrobacter属(ニトロバクター)は高濃度の亜硝酸に対して耐性があるが、Nitrospira属(ニトロスピラ)にはないと言われています。
硝酸塩の量を計ることでどのくらい亜硝酸酸化細菌がいるか目で見ることができます。
硝化細菌の増殖に及ぼす要因について
硝化細菌は分離や培養が難しい為、中々研究が進んでいませんが、生息環境から溶存酸素や有機物の多さ、水温、Ph等様々な環境因子が関係していると言われています。
硝化細菌の増える速度について
海洋性硝化細菌の研究は進んでおり、亜硝酸酸化細菌にくらべ、アンモニア酸化細菌の増殖は遅いと言われています。
水槽を立ち上げてから、硝化作用はアンモニア酸化細菌がアンモニアを亜硝酸に変化することで、亜硝酸が水槽内に増えていきます。
亜硝酸酸化細菌の増殖速度はアンモニア酸化細菌に比べ、早い為、水量やろ材、ろ過器によりますが、立ち上げから30日前後で、細菌数は上限に達すると言われています。
アンモニア酸化細菌は60日程で細菌数が上限に達すると言われています。
その為、よくアクアリウムの世界では水槽を立ち上げて1か月くらいしたら生体を入れてもいいよとお店の方が言うことが多いです。
亜硝酸が増えることで、亜硝酸酸化細菌が増殖できるためアンモニア酸化細菌が増える速度に比例して亜硝酸酸化細菌がどんどん増殖していきます。
硝化細菌の酸素溶存量について
アンモニア酸化細菌や亜硝酸酸化細菌は酸素が好きな偏性好気性細菌の為、水に酸素が溶けけこめば溶け込む程、硝化反応は大きくなります。
硝化細菌が増えれば増えるほど酸素消費量も増えるため、エアレーション等が重要になってきます。
オーバーフロー水槽等では濾過槽通過前後の飼育水中の溶存酸素量を計ることで硝化反応が活発かどうか知ることができます。
硝化細菌の最適温度について
一般的に硝化細菌の最適温度は腸内細菌や土壌細菌と比較して低いと言われています。
淡水と海水の硝化細菌では適温温度が変わってきます。
海水魚水槽の場合、水温の上昇に比例して上昇し、30~35℃で最も高い発生を示します。
しかし、35℃を超えると急激に活性度が低下すると言われています。
淡水魚の場合、海水魚に比べると水温変化に伴う活性の変化は穏やかですが、30℃を超えると活性が低下すると言われています。
又、どちらも急激な水温変化では硝化活性が低下すると言われてます。
硝化細菌の最適Phについて
硝化細菌の最適Phは海水、淡水共にPh9付近だと言われてます。
海水の場合は最適Phの幅が極端に狭く8以下になると硝化活性が60%前後まで低下します。
淡水の場合はPh6以下になると硝化活性が60%をきってしまうのでPH6~7前後がいいと言われています。
水槽内では硝化反応によって飼育魚の排泄物や残餌の分解によって生じたアンモニアが最終的に硝酸塩に変換され、蓄積されていきます。
硝酸塩が蓄積されるとPhが低下して硝化反応の低下を招く恐れがあるのでPhが下がりすぎる場合、硝酸塩が溜まっている可能性があります。
海水濃度について
硝化細菌はその生息環境によって種が異なる為、海水に対する適応性も変化してきます。
海水性硝化細菌は天然海水程度の塩分濃度が必要であり、塩分濃度が低下することで、極端な硝化活性の低下を引き起こします。
逆に土壌や淡水由来の硝化細菌は海水の塩分濃度では全く硝化活性をしないことが知られています。
その為、淡水魚を塩浴させる場合、塩分濃度が高いと硝化細菌は硝化反応を全くしなくなってしまう為、餌のあげすぎに注意が必要となってきます。
濾過槽を洗う際には注意が必要です。
硝化細菌の維持方法について
濾過槽の表面付近では硝化活性が高いのに対し、下層にいくにつれ、硝化活性が極端に低下すると言われています。
これは、硝化作用に必要な溶存酸素等が下層には行き渡らず、溶存酸素の獲得に有利な表層に硝化細菌が多く分布していることを表しています。
その為、表面積が多いろ材が有利であると言われています。
ろ過器やろ材が目詰まりすることで硝化細菌の硝化作用に必要な溶存酸素量が低下する為、定期的な洗浄が有効となってきます。
洗浄をすると硝化細菌は洗い流される為、減ってしまいます。
海水魚飼育水槽の研究例とかでは、海水中で軽く揺する程度の洗浄の場合、硝化活性は1回目の洗浄で約50%落ちるそうです。
激しく揺すったり洗い流すと約30%まで低下します。
亜硝酸酸化細菌に比べるとアンモニア酸化細菌はより顕著に低下すると言われています。
その為、ろ材やろ過器を洗う際は優しく洗い洗いすぎないようにするのが大切だと思います。
まとめ
簡単に今回の記事をまとめます。
・好気性従属栄養細菌が有機物をアンモニアに変化させる。
・アンモニアをアンモニア酸化細菌が亜硝酸に変化させる。
・亜硝酸を亜硝酸酸化細菌が硝酸塩に変化させる。
・亜硝酸酸化細菌よりもアンモニア酸化細菌の方が増加速度が遅い。
・好気性の為、酸素が水槽内に溶けているかが重要。
・最適温度は生体に合わせて大丈夫ですが、水温によって硝化細菌の活動レベルが変化する。
・Phが低すぎると硝化作用が低下する。
・塩分濃度も重要である。
・洗浄時は強く洗いすぎない。
水槽内の硝化細菌について普段考える機会は少ないと思います。
しかし、知っておくことで水槽が調子を崩した時に何が原因で調子を崩しているのかより深く考えることが出来るようになると思います。
最後まで読んでくださりありがとうございました。